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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)1090号 判決

A、B事件原告、C事件被告 ブロードウエイ管理組合

右代表者理事長 大橋秀美

右訴訟代理人弁護士 河崎光成

同 千賀修一

右千賀修一訴訟復代理人弁護士 井上能一

A事件被告 中川絹子

右訴訟代理人弁護士 藤井英男

同 古賀猛敏

B事件被告、C事件原告 元島守

B事件被告、C事件原告 株式会社ブロード社

右代表者代表取締役 元島守

B事件被告 吉田豊

右三名訴訟代理人弁護士 宮原功

右訴訟復代理人弁護士 須田徹

主文

一  A事件被告は、同事件原告に対し、金四一万二八九一円及び内金三二万八〇九七円に対する昭和五六年五月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

二  B事件被告元島守は、同事件原告に対し、金二二万五〇六八円及び内金二二万一〇〇四円に対する昭和五五年一〇月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

三  B事件被告株式会社ブロード社は、同事件原告に対し、金四万八六二二円及び内金四万七七四五円に対する昭和五五年一〇月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

四  B事件被告吉田豊は、同事件原告に対し、金四万七二二三円及び内金四万六三七一円に対する昭和五五年一〇月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

五  A、B事件原告のその余の請求はいずれもこれを棄却する。

六  C事件原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

七  訴訟費用は、A、B、C事件を通じ、A事件被告、B事件被告、C事件原告元島守、同株式会社ブロード社、B事件被告吉田豊の負担とする。

八  この判決は、第一ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(A事件について)

一  請求の趣旨

1 A事件被告は、同事件原告に対し、金四一万七二四四円及び内金三三万二一三〇円に対する昭和五六年五月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用はA事件被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 A事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用はA事件原告の負担とする。

(B事件について)

一  請求の趣旨

1 B事件被告元島守は、同事件原告に対し、金二二万五三三〇円及び内金二二万一二五〇円に対する昭和五五年一〇月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

2 B事件被告株式会社ブロード社は、同事件原告に対し、金四万八六三八円及び内金四万七七六〇円に対する昭和五五年一〇月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

3 B事件被告吉田豊は、同事件原告に対し、金五万二七三二円及び内金五万一七八〇円に対する昭和五五年一〇月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用はB事件被告らの負担とする。

5 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 B事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用はB事件原告の負担とする。

(C事件について)

一  請求の趣旨

1 C事件原告らと同事件被告との間において、同事件被告を債権者、同事件原告らを債務者らとする東京地方裁判所昭和五一年(ヨ)第七三一三号管理費支払仮処分申請事件について昭和五二年二月九日成立した和解が無効であることを確認する。

2 訴訟費用はC事件被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第六項と同旨

2 訴訟費用はC事件原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(A事件について)

一  請求の原因

1 当事者等

(一) 左記の建物(以下「本件ビル」という。)は、本館が地下三階地上一〇階から成り、その地下一階から地上四階までは店舗(以下「店舗部門」という。)、五階以上は住宅(以下「住宅部門」という。)として使用されており、これに地下一階地上四階の別館(以下「別館部門」という。)が附属する区分所有建物であって、A事件原告は本件ビルの管理者である。

名称 中野コープブロードウエイセンタービル

所在 東京都中野区中野五丁目五二番一五号(登記簿上は一九九番地一及び一九七番地一)

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下三階付一〇階建

床面積 一階 六四八一・七一平方メートル

二階 五七〇六・六四平方メートル

三階 六〇九一・四七平方メートル

四階 五六四二・五四平方メートル

五階 四〇六三・九〇平方メートル

六階ないし

一〇階 各三一二〇・四六平方メートル

地下一階 七三二〇・二四平方メートル

地下二階 二〇四一・六七平方メートル

地下三階 三二四三・八五平方メートル

(二) A事件被告は、本件ビルの店舗部門に所在する専有部分(四六九号室の一、専有面積一三・五〇平方メートル)を所有する区分所有者である。

2 昭和四九年九月二八日開催の区分所有者集会における決議(以下当庁昭和四九年(ワ)第六五一六号、同五〇年(ワ)第一〇九〇号((A事件))併合事件中間判決の呼称と一致させるため、右決議を「本件第二決議」という。)の存在と有効要件

(一) 決議の内容

昭和四九年九月二八日開催の本件ビルの区分所有者集会(以下「本件第二集会」という。)において、本件ビルの管理費を同年一〇月分から次のとおり値上げする旨の本件第二決議がなされた。同決議は、本件ビルを店舗部門、住宅部門、別館部門の三つの部門に分け、各部門別にそれに属する専有部分の合計床面積を算出し、その面積比に応じて共用部分管理費の負担割合を定めるものである。

(1) 店舗部門

維持費 専有部分一平方メートル

当りの一か月負担額 金 七八六円

設備費 同 金一〇一円

空調基本料 同(ファンコイル設備のある場合) 金一四八円

同 同(右設備のない場合) 金七四円

(2) 住宅部門

維持費 専有部分一戸当りの一か月負担額 金四〇〇〇円

同 同一平方メートル当りの一か月負担額 金二八四円

設備費 専有部分一戸当りの一か月負担額 金一〇〇〇円

同一平方メートル当りの一か月負担額 金七一円

空調基本料 同 同 金一四七円

(3) 別館部門

維持費 別館部門全体の一か月負担額 金一〇四万二五五二円

設備費 同 金二一万一一一七円

空調基本料 同 金五五万五二八三円

(二) 可決要件の充足

(1) 本件第二決議当時の本件ビルの区分所有者総数は五四五名であり、その専有部分の全床面積は三万八四三六・三七平方メートルであったところ、本件第二決議に関しては、本件第二集会に自ら出席して議決権を行使した同ビルの区分所有者のうち四八名(その専有部分の合計床面積は九五一五・二三平方メートル)、議決権を代理行使させた同ビルの区分所有者のうち二五〇名(その本人の専有部分の合計床面積は一万三四二七・九八平方メートル)がそれぞれ賛成票を投じたから、同決議の賛成者数(二九八名)は同ビルの区分所有者総数の、右賛成者の専有部分の合計床面積(二万二九四三・二一平方メートル)は同ビルの専有部分の全床面積の、それぞれ過半数にあたる。

(2) 議決権を代理行使させた右区分所有者らは、本件第二集会に先立って、その各代理人に対し、直接又は予め代理人選任権を授与していた者(当該区分所有者の専有部分の賃借人等)を介して議決権行使の代理権を授与した。

仮に、右の主張が認められないとしても、右の区分所有者らは、本件第二決議以後、A事件原告に対し、同決議により定められた額の管理費を異議なく支払っているから、本件第二集会において彼等の代理人として賛成票を投じた者の行為を、少なくとも黙示的に追認した。

(3) よって、本件第二決議は可決要件を充足するものである。

3 昭和五五年六月二七日開催の区分所有者集会における決議(以下「本件第三決議」という。)の存在と有効要件

(一) 決議の内容

昭和五五年六月二七日開催の本件ビルの区分所有者集会(以下「本件第三集会」という。)において、同ビルの共用部分維持費を同年七月分から次のとおり値上げする旨の本件第三決議がなされた。

(1) 店舗部門 専有部分一平方メートル当りの一か月負担額 金一一四五円

(2) 住宅部門の住宅 専有部分一戸当りの一か月負担額 金五〇〇〇円

同 一平方メートル当りの一か月負担額 金三九〇円

(3) 別館部門 別館部門全体の一か月負担額 金一七〇万九九六四円

(二) 可決要件の充足

(1) 本件第三決議当時の本件ビルの区分所有者総数は五四〇名であり、その専有部分の全床面積は三万八二一二・五二平方メートルであったところ、同決議に関しては、本件第三集会に出席して議決権を行使した同ビルの区分所有者のうち四二名(その専有部分の合計床面積は一万一五四四・二三平方メートル)、同ビルの区分所有者の代理人としてこれを行使した者のうち三〇〇名(その本人の専有部分の合計床面積は一万七九六一・二七平方メートル)がそれぞれ賛成票を投じたから、同決議の賛成者数(三四二名)は本件ビルの区分所有者総数の、右賛成者の専有部分の合計床面積(二万九五〇五・五〇平方メートル)は同ビルの専有部分の全床面積のそれぞれ過半数にあたる。

(2) 区分所有者の代理人として右賛成票を投じた者らは、右決議に先立ち、本人たる各区分所有者から議決権行使の代理権を授与された。

(3) よって、本件第三決議は可決要件を充足するものである。

4 遅延損害金

昭和四八年一二月一三日開催の本件ビルの区分所有者集会において、各区分所有者がその負担する管理費を毎月一五日までに支払わなかった場合には、翌一六日から支払ずみまで右滞納管理費に対する金一〇〇円につき日歩四銭の割合による遅延損害金を付加して徴収する旨の決議がなされた。

5 A事件被告は、別紙一覧表1記載のとおり、管理費を滞納している。

6 よって、A事件原告は、同事件被告に対し、右滞納管理費金三三万二一三〇円及びその内金である別紙一覧表1各合計覧記載の各金員に対する各当該月の一六日から昭和五六年四月三〇日までの遅延損害金の合計額である金四一万七二四四円及び内右管理費滞納額に対する同年五月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1 請求の原因1(当事者等)(一)(二)は認める。

2 同2(本件第二決議の存在及び有効要件)のうち(一)(決議の内容)は認め、(二)(可決要件の充足)は否認する。

3 同3(本件第三決議の存在及び有効要件)のうち(一)(決議の内容)は認め、(二)(可決要件の充足)は否認する。

4 同4(遅延損害金)は否認する。

三  A事件被告の主張

1 本件第二決議の無効原因

(一) 手続上の瑕疵

(1) 本件第二集会の招集通知書(以下「本件招集通知書」という。)には、右集会に欠席する場合は、A事件原告に対し議決権代理行使の委任状を提出するように添書があり、さらに、「尚、委任状に反対の表示をされる方は書面による具体的修正案を必ず御添付下さい(修正案のない反対は管理の否定につながりますので、このようなことはあるはずもありませんから採決の際は賛成票にくり入れますので念の為。)。」という記載(以下「本件記載」という。)がなされていた。

右添書に表示されたような、反対意見には具体的修正案の添付を要求し、然らざる限りは賛成票にくり入れるという取扱いは、本件ビルの区分所有者が本件第二集会において議案に反対の意思を表明することを著しく制限するものであって、右の取扱いを前提として提出された委任状に基づいてなされた本件第二決議は無効である。

(2) 本件第二集会に提出された議決権行使のための委任状のうち別紙一覧表3記載の委任状には、同表に表示したような瑕疵が存在するから、右委任状による代理権の授与は無効であって、A事件原告が本件第二決議における賛成票に算入しているもののうち、右委任状に基づく票(その投票をなした区分所有者の専有部分の合計床面積四二九六・一八平方メートル)はこれから控除されるべきであり、したがって、本件第二決議は可決要件を充たさないものというべきである。

(二) 内容的瑕疵

(1) 本件第二決議は、前記のとおり、本件ビルを店舗部門、住宅部門、別館部門の三つの部門に分け、それぞれの部門に属する区分所有者の管理費負担割合に差異を設けているものであるが、これは各共有者がその持分に応じて共用部分の負担に任ずべきものと定めている建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)一四条に違反し無効である。

(2) 本件ビルにおいては、本館の屋上は住宅部門の庭園として同部門の区分所有者のみの専用使用に供されている。また、別館の屋上は有料駐車場であって、同部門の区分所有者のみが独占的に使用、管理しているが、同駐車場の収容能力は小型車で三五台、料金は月極め一台三万円であるから、一か月合計金一〇五万円、一年間合計金一二六〇万円の収益を上げている。更に、本館一階から地下一階へ至る部分のスロープは、別館の駐車場への出入口としてほとんど独占的に使用されているうえ、本館地下二階、三階の機械室内には別館専用の機械が設置されているため、別館は同機械が右機械室に占める面積だけ、いわば本館に寄生している。

このように別館部門及び住宅部門の区分所有者は、本件ビルの右各共用部分を専用使用することによって多大の利益を得ているにもかかわらず、本件第二決議においては、これらの利益が全く考慮されず、店舗部門の管理費が他の部門のそれよりも不当に高額に定められたのであって、同決議はその内容が著しく不公正、不公平であり、無効である。

2 本件第三決議の無効原因

(一) 手続上の瑕疵

本件第三決議の際い用いられた議決権代理行使の委任状には瑕疵が存在したので、これに基づいてなされた右決議は無効である。

(二) 内容的瑕疵

本件第三決議にも、前記A事件被告の主張1(二)(2)(内容の著しい不公正、不公平による無効)に記したと同様の内容的瑕疵があるから、同決議は無効である。

四  A事件被告の主張に対する認否

1 同1(本件第一決議の無効原因)(一)(手続上の瑕疵)(1)のうち、本件招集通知書に、本件第二集会に欠席する場合にはA事件原告に対し議決権代理行使の委任状を提出すべき旨の添書があり、さらに本件記載がなされていたことは認めるが、本件第二決議が無効であるとの点は争う。

2 同1(一)(2)の主張は争う。

3 同1(二)(内容的瑕疵)(1)のうち、本件第二決議が本件ビルを店舗部門、住宅部門、別館部門の三つの部門に分け、それぞれの部門に属する各区分所有者の管理費負担割合に差異を設けていることは認めるが、同決議がその内容的瑕疵により無効であるとの点は争う。

4 同1(二)(2)のうち、本件ビル本館の屋上は住宅部門の庭園として同部門の区分所有者のみが専用使用していること、別館の屋上は有料駐車場として別館部門の区分所有者のみが独占的に使用していること、本館地下二階、三階の機械室内に別館専用の機械が設置されていることは認めるが、本館一階から地下一階へ至る部分のスロープが別館駐車場への出入口としてほとんど独占的に使用されていること、別館部門及び住宅部門の区分所有者が本件ビルの右各共用部分を使用することによって多大の利益を得ていること、本件第二決議において店舗部門の管理費を他の部門のそれよりも不当に高額に定めたことは否認し、本件第二決議の内容が著しく不公正、不公平であって、同決議が無効であるとの主張は争う。

5 同2(本件第三決議)(一)は否認する。

6 同主張2(二)に対する認否は右4項と同旨

(B事件について)

一  請求の原因

1 当事者等

(一) A事件請求の原因1(一)と同旨(但し、「A事件原告」とあるのを「B事件原告」とする。)

(二) B事件被告らは、次のとおり本件ビルの店舗部門に所在する専有部分を所有する区分所有者である。

専有部分

専有面積

B事件被告元島守

一一〇号室

一七・六二(平方メートル)

二二八号室の一

四六・七二(平方メートル)

同株式会社ブロード社

一五一号室

一三・九(平方メートル)

同吉田豊

四六七号室の一

一三・五(平方メートル)

2 A事件請求の原因3(本件第三決議の存在と有効要件)と同旨

3 同4(遅延損害金)と同旨

4 B事件被告らは、別紙一覧表4記載のとおり、管理費を滞納し、かつ、遅延損害金支払義務を負っている。

5 よって、B事件原告は、同事件被告らに対し、それぞれ請求の趣旨1項ないし3項記載のとおりの金員の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1 請求の原因1(一)(二)は認める。

2 同2ないし4はいずれも否認する。

三  B事件被告らの主張

1 A事件被告の主張1(二)(1)(法一四条違反による無効)中に「本件第二決議」とあるのを「本件第三決議」と改めるほかは、右主張と同旨

2 A事件被告の主張2(二)(内容の著しい不公正、不公平による無効)と同旨

3 B事件被告らは、同事件原告に対し、昭和五五年七月分ないし九月分の本件ビルの維持費として左の各金員を弁済提供したが、同原告は同金員を本件第三決議による値上げ維持費額の内金としてでなければ受領しないとする態度を明確にしたため、右被告らは右各金員を弁済供託した。

専有部分

金額(円)

(ア)B事件被告元島守

一一〇号室

七月分

一万三八五〇

八月分

九月分

(イ)同

二二八号室の一

七月分

四万二七四〇

八月分

九月分

(ウ)同株式会社ブロード社

一五一号室

七月分

一万〇九三〇

八月分

九月分

(エ)同吉田豊

四六七号室の一

七月分

一万一八五〇

八月分

九月分

四  B事件被告らの主張に対する認否

1 同1に対する認否は、A事件被告の主張に対する認否3と同旨

2 同2に対する認否は、A事件被告の主張に対する認否6と同旨

3 同3は否認する。

(C事件について)

一  請求の原因

1 当事者等

(一) A事件請求の原因1(一)と同旨(但し、「A事件原告」を「C事件被告」とする。)

(二) C事件原告らは、本件ビルの区分所有者である。

2 昭和四九年六月二八日開催の区分所有者集会(以下「本件第一決議」という。)の存在

昭和四九年六月二八日開催の本件ビルの区分所有者集会(以下「本件第一集会」という。)において、同年七月分以降の本件ビルの管理費を次のとおり値上げする旨の本件第一決議がなされた。

(一) 店舗部門

維持費 専有部分一平方メートル当りの一か月負担額 金七〇八円

設備費 同 金九二円

空調基本料 同 (ファンコイル設備のある場合) 金一三三円

同 同 (右設備のない場合) 金六七円

(二) 住宅部門

維持費 専有部分一戸当りの一か月負担額 金三六〇〇円

同 同 一平方メートル当りの一か月負担額 金二五六円

設備費 専有部分一戸当りの一か月負担額 金九〇〇円

同 同 一平方メートル当りの一か月負担額 金六四円

空調基本料 同 同 金一三三円

(三) 別館部門

維持費 別館部門全体の一か月負担額 金九三万八二九七円

設備費 同 金一九万五円

空調基本料 同 金四九万九七五五円

3 次いで、昭和四九年九月二八日開催の本件第二集会において、本件第二決議がなされた。

4 C事件原告らは、本件第一、第二決議の効力を争って両決議の無効確認を求める訴を東京地方裁判所に提起(同庁昭和四九年(ワ)第六五一六号事件、以下「別訴事件」という。)するとともに、同年七月分以降の右値上げ管理費の支払を拒絶していたところ、C事件被告は、同事件原告らを含む三三名を相手どって、右管理費請求の本訴を同裁判所に提起(同庁昭和五〇年(ワ)第一〇九〇号事件、((以下「一〇九〇事件」という。))、A事件は当初三三名を被告として提起された上記事件の中の一部である。)するとともに、右管理費請求権を被保全権利として右管理費の仮払いを求める断行の仮処分を同裁判所に申請した(昭和五一年(ヨ)第七三一三号事件、以下「本件仮処分事件」という。)。

5 本件仮処分事件の昭和五二年二月九日の審尋期日において、C事件原告らを含む一五名(以下「C事件原告ら等」という。)と被告との間に次の内容の訴訟上の和解が成立した(以下「本件和解」という。)。

和解条項

(一) C事件原告ら等は、同事件被告に対し、昭和五二年一月末日現在の未払いの管理費等の合計金として別紙一覧表6(注、ここでは同表においてC事件原告ら以外の者の分については省略する。)の元金残高記載のとおりの金員の支払義務あることを認め、これに次項の利息額の合計額を加算した額である分割支払合計額をその記載のとおり分割して各表支払期日に支払う。

(二) 右分割支払については、昭和五二年三月末日までに全額を支払ったときは利息欄表示の金額の支払を免除し、同年七月末日までに全額を支払ったときは年六分の利息を付した額とし、昭和五三年一月末日までに全額を支払ったときは年八分五厘の利息を付した額とする。

(三) 今後C事件被告は、管理費等の増額の必要を生じた場合は、他の区分所有者らと同様C事件原告ら等の意見を事前に聴取し、できるかぎり他の区分所有者らと同様その意見を尊重するよう努めるものとする。

(四) C事件被告は、組合員らに同被告管理にかかる帳簿諸表の閲覧請求権を認める制度について速やかに制度化を図るよう努力する。

(五) C事件原告ら等は、昭和四九年六月二八日及び同年九月二八日の区分所有者集会における管理費等値上げに関する決議(注、本件第一決議及び本件第二決議)の有効なことを認め、右金額を承認し、昭和五二年二月以降右増額後の管理費等を誠実に支払う。

(六) C事件原告らが第(一)項の分割金の支払を二回以上遅滞したときは期限の利益を失い、即時残額を支払うものとし、右の場合には日歩四銭の割合の遅延損害金を付して支払う。

(七) C事件原告ら等及び被告は、別訴事件、一〇九〇事件の各訴えをそれぞれ取下げる。

(八) 右本訴及び本件仮処分事件の訴訟費用は各自の負担とする。

6(一) C事件原告らは、本件第一決議が手続的要件をすべて具備しているものと信じ、これを前提として右決議が有効であることを認める内容の本件和解をしたのであるが、実際には、右決議の際に用いられた議決権代理行使の委任状のうち七八通は瑕疵のある無効の委任状であり、これら委任状を提出した区分所有者らの専有部分の合計床面積三四七五・一五五平方メートルは、出席区分所有者の専有部分の合計床面積から控除されるべきである。かかる修正を施すと、本件第一決議は法三一条一項の決議要件を充足していなかったことになる。

そして、同原告らが右瑕疵ある委任状を有効であると誤信したことは、本件和解における争いの前提事項に関する錯誤であり、同原告らは右委任状に瑕疵があることを知っていたならば本件和解の意思表示はしなかったであろうから、右錯誤は意思表示の要素に関するものである。したがって、本件和解における同原告らの意思表示は、右錯誤によって無効である。

(二) 前記別訴事件と一〇九〇事件は併合審理されていたところ、東京地方裁判所は、昭和五二年一月一七日、「本件第一、第二決議は法一四条に違反することによって無効であることはない。」とする中間判決(以下「本件中間判決」という。)を下した。そして、同判決が下されたことによって本件仮処分事件についても断行の仮処分決定が下され、それが執行されるのが必至の情勢となったのであるが、かかる事態に至った場合は、本件ビルの店舗部門において商売を営んでいたC事件原告らの営業上の信用が失われる恐れがあった。C事件原告らは、右のような事態を極度におそれたため、B事件被告らの主張1(二)(2)に摘示したような管理費負担上の不公正、不公平要因の存在を十分に把握できないまま、不本意ながら本件和解に応じたのである。したがって、本件和解はC事件原告らの窮迫、無知に乗じて成立したものであって民法九〇条に違反し無効である。

7 よって、C事件原告らは、同事件被告に対し、本件和解が無効であることの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

1 請求の原因1ないし5はいずれも認める。

2 同6(一)の事実は否認し、要素の錯誤の主張は争う。

3 同6(二)の事実のうち、別訴事件と一〇九〇事件は併合審理されていたところ、東京地方裁判所は昭和五二年一月一七日、本件中間判決を下したこと、同判決が下されたことによって本件仮処分事件についても断行の仮処分決定が下される可能性が極めて強くなったこと、本件仮処分事件の債務者であるC事件原告ら等が本件和解に応じたことは認め、本件ビルの店舗部門において商売を営んでいたC事件原告らが、本件仮処分事件につき仮処分決定がなされ、それが執行されるという事態に至った場合には、営業上の信用が失われる恐れがあったとの点は知らない。その余の事実は否認し、本件和解が同事件原告らの窮迫、無知に乗じて成立したもので民法九〇条に違反し無効であるとの主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

第一A事件について

一  請求の原因1(一)、(二)の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件第二決議の効力について

1  請求の原因2(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、請求の原因2(二)(1)、(2)の主張について判断する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件第二集会当時における本件ビルの区分所有者総数は五四五名、その専有部分の全床面積は三万八四三六・九七平方メートルであった。

(二) 本件第二集会には、合計三〇五通の委任状と題する書面が提出された。右委任状には、いずれも「私は  氏を代理人と定め次の権限を委任します。昭和四九年九月二八日開催の本件ビル区分所有者集会及びその継続会又は延会に出席して、下記議案につき私の指示(○印で表示)に従って議決権を行使すること。但し、賛否を明記しない場合及び原案に対する修正案が提出された場合いずれもその決定を一任致します。」旨の記載がなされ、その下に区分所有者の専有部分(室番号)の表示とともに委任状作成者の署名又は押印がなされていた。他方、本件第二集会の決議事項である本件第二決議(案)に対する賛否については、これを表示するものとしないものとがあり、これらのうち賛成の意思を表示するものと賛否を明示しないものの合計通数は二八七通であったが、この委任状提出者のうち後記のとおり本件第二集会に出席して直接議決権を行使した者があったため、これらの分を控除すると残余は二五〇通であって(以下この二五〇通の委任状を「賛成委任状」という。)、これらに表示された専有部分(室)の総数は三〇四戸、その合計床面積は一万三四二七・九八平方メートル、右専有部分の区分所有者累計数は少なくとも二七三名であった。また、右賛成委任状は、これを作成名義人の観点から分類すると、その大部分にあたる一八七通が本件ビルの区分所有者名義のものであるが、残余の六三通は、代理人名義のもの、区分所有者は法人であるがその代表者個人の氏名のみが記載されているもの、区分所有者たる個人の氏名又は法人の名称の代りに、その営む店舗の名称が記載されているもの、右以外の区分所有者ではない第三者の氏名が記載されているもの(この最後の分類に属する委任状を以下「他人名義委任状」という。)等であり、更に、議決権を行使すべき代理人の氏名が特定掲記されているか否かの観点から分類すると、これを明記しているもの四一通(指定された代理人の数一五名)、然らざるもの二〇九通(代理人として、原告を指定するに止まるもの一通を含む。)であった。

(三) 本件第二集会には、本件ビルの区分所有者のうち八一名が出席した。右出席者の中には、前記賛成委任状中に議決権を行使すべき代理人としてその氏名を特定掲記された前記一五名のうちの一一名が含まれていたが、残余の四名は欠席した。右出席者のうち自己の議決権の行使として本件第二決議(案)に賛成票を投じた者は四八名、その専有部分の合計床面積は九五一五・二三平方メートル、であり、A事件原告はこのほかに委任状出席者のうち二五〇名が同決議(案)に賛成したと算定した。

(四) 本件第二決議がなされた後、前記他人名義委任状に表示された専有部分の区分所有者のうち一九名が、A事件原告の質問に答えて、彼らが右決議に先立って、彼らの所有する専有部分を表示した委任状の作成名義人に対し、右決議(案)につき賛成の議決権を行使する代理権を授与した旨の回答を寄せたほか、前記賛成委任状に表示された専有部分の区分所有者は、全員異議なく、本件第二決議後同決議で定められた管理費をA事件原告に支払っている。

以上のとおり認めることができ、右認定事実によれば、本件ビルの区分所有者のうち少なくとも二七三名は、本件第二集会に先立って、本件第二決議(案)に賛成の意思を明示し又は賛否の意思決定をも委ねる趣旨のもとに、これにつき議決権を行使する代理人を自ら選任し又はその代理人を選任する権限を授与したこと、右区分所有者らから代理人に選任された者のうち一部の者は、更に復代理人を選任し又は復代理人選任権をA事件原告に授与したこと、右により区分所有者又はその代理人から選任された代理人は、四名を除き本件第二集会に出席して本件第二決議(案)に賛成票を投じたこと、他方、A事件原告は、右により直接又は代理人を介してA事件原告に代理人選任権を授与した区分所有者及び右欠席にかかる四名の代理人を選任した区分所有者のために、本件第二集会の議長たる訴外岩波力を代理人に選任し、議長はこれらの区分所有者の代理人として本件第二決議(案)に賛成票を投じたこと、右議長の代理行為については、右区分所有者のうちA事件原告に直接代理人選任権を授与した者を除くその余の区分所有者も、予め承諾し又は少なくとも事後に追認したものであることを推認することができる。そして、この事実と前記認定にかかる本件第二決議当時の本件ビルの区分所有者総数及び専有部分の全床面積並びに本件第二集会に出席して本件第二決議(案)に賛成票を投じた区分所有者の数及びこれら区分所有者の専有部分の合計床面積を併せ考えれば、本件第二決議において自ら又は代理人により賛成票を投じた区分所有者数は本件ビルの区分所有者総数の、右賛成者の専有部分の合計床面積は本件ビルの専有部分の全床面積のそれぞれ過半数にあたる旨のA事件原告の請求の原因2(二)(1)、(2)の主張は理由がある。

3  「委任状の瑕疵」の主張について

右の点に関し、A事件被告は、本件第二集会に提出された前記賛成委任状のうち別紙一覧表3記載の委任状には、同表記載のような瑕疵が存在するから、右委任状による代理権の授与は無効であり、右委任状に基づく賛成票は、全賛成票数中から控除されるべきである旨主張する。

しかしながら、本件賛成委任状は、前記認定にかかるその様式及び記載事項に照らすときは、委任者名欄に表示された者の、本件第二集会における議決権行使の代理権を特定の第三者又はA事件原告が任意に選任する第三者に授与する旨の意思表示を記載した書面と解すべきところ(固より、右のような代理権授与の意思表示そのものは、別に口頭又は書面をもってなされ、本件賛成委任状は、単にその授権の意思表示がなされたこと又は代理権授与契約が成立したことを証する書面にすぎない、ということも十分に考えられるけれども、ここでは右のような考慮はさしはさまないことにする。)、かかる書面につき、委任者名下に捺印がなされていないこと、委任者たる法人の代表者名が記載されていないこと、そこに表示された専有部分の床面積が登記簿表示のそれと異なることの事由があるからといって、そのことのみをもって当該書面に示された意思表示の効力の無効を招来すると解すべき法律上の根拠は存しない(むしろ、意思表示の解釈の原則に従って、当該書面の記載の合理的解釈から委任者の何人たるかが特定できれば、少なくとも委任者の表示として欠くるところはない、というべきである。)から、右の諸点をとらえて、本件賛成委任状の効力を問擬するA事件被告の主張は失当である。

もっとも、A事件被告が、本件賛成委任状のうちには、委任者として表示されている者の氏名と当該専有部分の区分所有者の氏名が相違するものがある旨指摘する点は、その委任状の形式的瑕疵の問題としてというより、それらの委任状に記載された意思表示が当該委任状に表示された専有部分の区分所有者自身又は同人から代理権を授与された者によってなされたものであるかという観点から一応問題にする余地があるといいうるけれども(仮に、同被告の主張の趣旨が、本件賛成委任状のうち区分所有者以外の者が作成名義人になっているものに示された意思表示は、当然に無効であるというにあるとすれば、その主張はそれ自体失当たるを免れない。)、本件賛成委任状のうち、前記のとおり、区分所有者は法人であるのにその法人の代表者名のみが記載されているもの及び区分所有者たる法人又は個人の名称の代りに、その営む店舗の名称が記載されているものは、それぞれ当該法人又は個人の意思表示を記載したものと解して差し支えないし、また、前記他人名義委任状に表示された授権の意思表示については、その名義人がかかる意思表示をすることについて当該区分所有者が事前に承諾し又は少なくとも右授権の意思表示に基づいてなされた議決権の代理行使を追認したことは前記のとおりであって、結局、同被告が主張する「委任者の氏名と区分所有者のそれとの相違」は、本件賛成委任状に示された意思表示の効力に消長を来たすものではない。

また、A事件被告が主張するところの本件賛成委任状の瑕疵のうち、「委任者として複数の区分所有者の氏名を記載すべきであるのに、一名の区分所有者の氏名のみ記載されている。」、「区分所有者は法人であるのにその代表者個人の氏名のみが記載されている。」、「真実の区分所有者は株式会社であるのに委任状の名義人は有限会社とされている。」との各点は、要するに同被告がいう「委任者の氏名と区分所有者のそれとの相違」の範ちゅうに属するものと解すべきであり、かつ、それがかかる委任状に表示された意思表示の無効を招来するものでないことは、前に説示したとおりである。

更に、A事件被告は、別紙一覧表3記載の番号15及び69の委任状は代理人名義であるところ、その代理人の代理権を証する書面が添付されていないから、かかる委任状に示された意思表示は無効である旨主張するけれども、代理人名義の本件賛成委任状に示された意思表示は、その代理権を証する書面の添付がない場合は無効であると解すべき法律上の根拠は存しないから、右主張は採用するに由ないものである。

4  「本件第二集会招集手続上の瑕疵」の主張について

次に、A事件被告は、本件招集通知書上の本件記載は、本件ビルの区分所有者が本件第二集会において反対の意思を表明することを著しく制限するものであるから、右の取扱いを前提として提出された委任状に基づいてなされた本件第二決議は無効である旨主張する。

本件招集通知書に、本件第二集会に欠席する場合は、A事件原告に議決権の代理行使の委任状を提出すべき旨の添書があり、更に本件記載がなされていたことは当事者間に争いがない。

なるほど、本件記載が本件第二集会に付議される議案(本件第二決議案)に反対の意思を有している区分所有者の心理に及ぼす影響について考えてみると、一面において修正案の提出を動機づけることは明らかであるけれども、修正案を提出することができないと考える区分所有者に対しては、委任状による反対意思の表明を断念若しくはちゅうちょさせるという面も全くないとは断定できない。しかしながら、議案(原案)に反対の意思を表明する区分所有者に対し修正案の提示を要求すること自体は、その修正案がもとの議案と並んで区分所有者集会に付議された場合、出席者の議論を活発化させ、より妥当な結論を得ることが期待できるから、合理的な要求と評して差し支えないし、区分所有者においても議案について反対の意思を表明する以上は、修正案議案の内容を良く理解し、必要があれば自ら調査するなどして修正案を添付するように努めるべきであるといえる。また、本件記載は、いわゆる委任状出席の方式により本件第二決議案に反対の意思を表明しようとする区分所有者に対してのみ修正案の提出を求めるものであって、その区分所有者が自ら本件第二集会に出席して右決議案に反対の意思を表明することはもとより、代理人を出席させ、その代理人を通じて反対の意思を表明することを禁じている訳でもない。

右に説示したところによれば、本件記載は、いまだ本件ビルの区分所有者らが本件第二集会において本件第二決議案に反対の意思を表明することを著しく制限したものとみることはできないのみならず、本件記載により具体的に右のような結果が生じたことを確認するに足りる証拠もない。

よって、A事件被告の前記主張も理由がない。

5  「本件第二決議の内容的瑕疵」の主張について

(一) A事件被告の主張1(二)(1)(法一四条違反に基づく無効)について

本件第二決議が本件ビルを店舗部門、住宅部門、別館部門の三つの部門に分け、それぞれの部門に属する各区分所有者の管理費負担割合に差異を設けていることは当事者間に争いがない。

しかし、当裁判所がすでに本件中間判決において説示したとおり、本件第二決議が法一四条に違反するとの理由によって無効であることはないから、右主張は理由がない。

(二) 同主張1(二)(2)(内容が著しく不公正、不公平であることを理由とする決議無効)について

(1) 本件ビル本館の屋上は、住宅部門の庭園として同部門の区分所有者のみが専用使用し、別館の屋上は、別館部門の区分所有者のみが有料駐車場として独占的に使用、管理していることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、別館部門は、その屋上駐車場から相当の収益を挙げていることを推認することができる。

右事実によれば、本件ビルの住宅部門及び別館部門の区分所有者は、同ビルの利用上、店舗部門の区分所有者が与ることのない利益を享受しているものといいうる。

ところで、A事件被告は、本件第二決議は、本件ビルの部門別管理費負担の配分について、住宅部門及び別館部門が享受している右のような利益を全く考慮せず、店舗部門の管理費のみを不当に高く定めるものであるとし、これをもって右決議の無効をもたらす一因である旨主張する。

しかしながら、右のように建物の共用部分を一部の区分所有者のみが専用使用している場合、その利益を享受しない他の区分所有者との不均衡をどのように調整すべきかについては、種々の方法が考えられるのであって(その最も端的な方法は、当該専用使用をする区分所有者から使用料を徴収することであり、更には、当初の分譲時において特定の共用部分の専用使用を予定されている区分所有者に対する専有部分の分譲価格を他より高額にすることも考えられる。)、右のような利害の調整は、専ら建物管理費の負担の配分を定めるに当ってなされなければならないと解すべき理由はない。むしろ、管理費負担の問題とは、一般には、建物の共用部分とその敷地の維持管理上必然的に要する費用及び区分所有者が共同して支払うことが取り決められている費用を各区分所有者にどのように配分、負担させるかという問題であって、右のような共用部分の専用使用に伴う区分所有者間の利害の調整の問題とは観点を異にするというべきである。したがって、本件第二決議により定められた管理費の各部門別負担額が本件ビル本館、別館の各屋上の利用状況を考慮に入れなかったものであるとしても、このことのみによって、直ちに本件第二決議の内容が著しく不公正、不公平であるということはできず、この点に関するA事件被告の主張は採用できない。

のみならず、《証拠省略》を総合すると、本件ビル各専有部分の当初の分譲の際、購入者らは、本館屋上は住宅部門の区分所有者が、別館屋上は別館部門の区分所有者が、それぞれ専用使用するものであることを承知したうえで、分譲契約を締結したこと、右各屋上の利用に必要な諸費用はそれぞれ専用使用している部門の各区分所有者のみが負担していることを認めることができる。右の諸事実に照らせば、右各屋上の利用によって住宅部門及び別館部門の区分所有者が利益を享受していることによる店舗部門区分所有者との間の不均衡は、分譲時における店舗部門及び別館部分の専有部分の分譲価格に差等を設けることなどにより、あるいは各屋上の利用の対価若しくは経費を専用使用する区分所有者らに負担させることによって、調整が図られているものと推認しうる余地もある。したがって、本件第二決議には、右各屋上の専用使用の利益を考慮することなく管理費負担を定めた瑕疵がある旨の前記A事件被告の主張は、すでにその前提において左袒しえないものがあるといわなければならない。

(2) 本館地下二階、三階の機械室内に別館用の機械が設置されていることは当事者間に争いがない。

A事件被告は、この点で別館部門は別館用の機械が本館の右機械室に占める面積だけいわば本館に寄生して利益を得ているのに、これを考慮に入れないで部門別の管理費負担額を定めた本件第二決議はその内容に瑕疵がある旨主張するけれども、一般論として、本件ビルのような大規模建物において、機械室の集中配備方式を採る理由としては、設計技術、建築技術上の便宜のほかに、建築費用の節減、敷地面積の有効利用、さらには、稼働開始後の運転、保守管理上の効率性、能率性など種々のものが考えられるのであって、単に、その建物の一部分の用にのみ供される機械装置が物理的に他の部分に位置しているの一事をもって、前者の部分の区分所有者のみが利益を享受しているものと速断することはできないのみならず、本件ビルの別館部門用機械装置が本館部門に設置されていることにより、別館部門の区分所有者らは、本館部分の区分所有者らとの対比において、具体的にどのような利益を享受しているのか、(仮に右の点を肯定するとして)その享受される利益の性質、程度からみて、これを同部門の管理費負担額を定めるについて考慮しなければ、本館部分の区分所有者らとの間に著しい不均衡が生ずることになるのか等の点については、これらを確認するに足りる的確な証拠がない。よって、右の主張もまた採用することができない。

(3) また、A事件被告は、本館の一階から地下一階へのスロープが別館の駐車場への入口としてほとんど独占的に使用されており、この点でも別館部門は本件ビルの共用部分からの利益を得ているにもかかわらず、これを考慮しないで各部門別の管理費の負担額を定めた本件第二決議には内容的瑕疵がある旨主張するけれども、本件全証拠によっても右の前提事実を認めることはできない。

(4) かえって、《証拠省略》によると、別館部門の専有部分の合計床面積が四一三九・四四平方メートルであることが認められるから、本件第二決議によって決定された、別館部門の専有部分一平方メートル当りが負担する月額管理費は、維持費が約二五二円、設備費が約五一円となり、同数字と同決議における前掲同様の単位面積当りの店舗部門の維持費七八六円、設備費一〇一円、住宅部門の維持費二八四円、設備費七一円とを比較すると、店舗部門の維持費は、住宅部門のそれの約二・七七倍、別館部門のそれの約三・一二倍、店舗部門の設備費は、住宅部門のそれの約一・四二倍、別館部門のそれの約一・九八倍になることが明らかである。(なお、《証拠省略》によれば、右にいう設備費とは、共有設備の補修、入れ替え、新設等に要する費用を指すことが認められる。)そして、《証拠省略》によると、本件ビルは昭和四一年に建設され、当初は、同ビヲの共用部分の管理は、訴外東京コープ株式会社(以下「東京コープ」という。)が担当し、各区分所有者から管理費を徴収してきたが、本件ビルの管理が後記のようにいわゆる自主管理に移行する直前における管理費は、店舗部門の専有床面積一坪当りの月額負担額が金一一一〇円であるのに対し、住宅部門、別館部門のそれがそれぞれ金四〇〇円、約金五〇円であったこと、このように別館部門の管理費負担額が他部門のそれに比べてかなり低額に定められていることについて、店舗、住宅部門の区分所有者から疑問が提起され、このような管理費負担の不公平を是正するために昭和四八年にA事件原告が設立され、同年一〇月一日からいわゆる自主管理制度に移行したこと、同原告は設立後、店舗部門、住宅部門及び別館部門からそれぞれ選出された理事を構成員とする理事会を設けたが、同理事会は右目的を達成する必要上、本件ビルの管理費のうち維持費について再検討するための諮問機関として「配分特別委員会」と称する委員会を設置したこと、同委員会は右三部門の各利益代表として、店舗部門、住宅部門から各四名、別館部門から二名、それぞれ選出された配分委員で構成され、本件ビルの共用部分に要する一年間の維持費を右三部門別にできる限り正確に算出してこれを理事会に答申することを目的とするものであったこと、同委員会は右目的を達成するため、本件ビルの共用機器類の配線、配管を調査したうえ、電気、水道の使用量のうちメーターにより各部門別のそれが測定できるものについては、同メーター上の数値を把握して、各部門別の使用料金を計算し、それ以外のものについては種々の資料に基づいて可能な限り正確な数字を計上するように努力し(A事件原告の設備顧問である伊藤建築士に保安電灯使用電力の右三部門間の比率を出すための調査を委嘱したこともある。)、出席委員の全員一致という意思決定方法による審議を二〇回以上も重ねて論議を尽した末、各部門別に定量的に把握できない維持費については、原則として、各部門別の配分比率(以下「維持費配分比率」という。)すなわち、店舗部門六四パーセント、住宅部門二七・五パーセント、別館部門八・五パーセントという割合を設定し、これに基づいて計算することとし、昭和四九年五月、「管理費の配分についての資料」と題する報告文書(以下「本件報告文書」という。)を作成し、これを理事会に提出したこと、なお右委員会の審議には、右伊藤建築士、同事件原告の会計顧問宮崎公認会計士のほか、同事件原告の理事長、副理事長も参加していたこと、他方、同事件原告の理事会は設備費の適否を検討するために設備部を設け、同部において共用部分に要する設備費の右三部門別適正配分比率が審議されたこと、理事会は配分特別委員会提出の本件報告文書及び右設備部における検討結果に基づき、伊藤建築士、宮崎公認会計士、河崎、千賀両顧問弁護士等の助言も得ながら協議を重ねて、受益者負担の考え方に立脚した右三部門別の管理費負担額の値上げ案を策定し、これを同年六月二八日開催の本件第一集会に付議したが、右理事会案は、別館部門の管理費を大幅に増額するものの、なお本館特に店舗部門のそれとの間の格差を維持するものであったため、右集会において、右案に対し管理費負担の不公平を是正するものではないなどの意見が出され、活発な討議の結果、右案に示された各部門別管理費額からそれぞれ一割相当額を控除した金額をもって暫定的な管理費とする旨の本件第一決議がなされたこと、その後、本件第二決議によって管理費の値上げが正式に可決されたことが認められる(右認定に反するA事件証人元島守の供述部分は採用することができない。)。

以上の諸事実を総合すれば、本件第二決議における管理費の値上げは、第一に配分特別委員会及び設備部、第二に理事会、第三に区分所有者集会という三段階の機関の審議を経て決定されたものであり、しかも、配分特別委員会では出席委員の全員一致による賛成が議決要件とされ、理事会における審議では弁護士、公認会計士、建築士等専門家の意見も聴取され、区分所有者集会においても実質的な審議が行われたことが窺われるのであって、このような管理費負担配分決定の経過及び前記のように自主管理への移行の目的が主に別館部門の管理費負担の不公平を是正することにあり、したがって、配分特別委員会の委員、理事、区分所有者らの最大の関心もこの点にあったであろうことをあわせ考えるならば、本件第二決議における各部門別の管理費負担額は、慎重かつ多角的な検討を経たものであって、公正、公平の担保があるものと認むべきである。

加えて、《証拠省略》によれば、配分特別委員会は本件第二決議以後も本件ビルの維持費の適正な負担配分をはかるべくその活動を継続しており、同委員会が昭和五二年に改めて調査した資料に基づいて維持費配分比率を試算したところ、店舗部門は五九・九二パーセントないし六四・四二パーセント、住宅部門は二六・五九パーセントないし三〇・二三パーセント、別館部門は八・九九パーセントないし一〇パーセントとすることが適正であるとの結論を得たことを認めることができ、右数字と本件報告文書において採用された前記の維持費配分比率とを比較すると、それほどの較差が認められないといえる。

また、《証拠省略》によると、同事件原告は、昭和五一年度(第一一期、同年四月一日から昭和五二年三月三一日まで)の決算において、昭和五一年度内に実際に要した各部門別維持費の額を算出したが、これによって得た各部門別の使用割合と本件報告文書において試算された各部門別の維持費配分割合とを比較すると、後者はその試算の根拠とされた個々の数値の中に若干修正を要するものがあるものの、全体としてはほぼ妥当な試算であったことが認められる。

以上の事実を総合すれば、本件第二決議において定められた各部門別の管理費負担額は、客観的にも適正妥当なものであったとみるべきである。

以上の次第で、被告の主張1(二)(2)は理由がない。

三  本件第三決議について

1  請求の原因3(一)(本件第三決議の存在)の事実は当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によれば、請求の原因3(二)(1)、(2)(本件第三決議の可決要件及び区分所有者から代理人に対する議決権行使の代理権授与)の事実を認めることができる。

3  A事件被告は、本件第三集会に提出された委任状には瑕疵があるから、その瑕疵ある委任状に基づき授権された代理人によりなされた本件第三決議は無効である旨主張するけれども、右委任状に瑕疵があった事実を認めるに足りる証拠はないから、右主張はその前提において失当である。

4  A事件被告の主張2(二)(決議内容の著しい不公正、不公平による決議)は前記第一、二5(二)(1)ないし(3)に説示した理由により採用できない。

5  《証拠省略》によれば、請求の原因4(遅延損害金)の事実を認めることができる。

6  《証拠省略》によれば、A事件被告が別紙一覧表2記載のとおり、本件ビルの負担管理費を滞納していることを認めることができる(同被告が右表記載の額を超えて同事件原告主張の別紙一覧表1記載の金額を滞納していることを認めるに足る証拠はない。)。

7  よって、A事件被告は、同事件原告に対し、別紙一覧表2記載の滞納管理費及びこれに対する支払ずみまでの遅延損害金を支払う義務がある。

第二B事件について

一  請求の原因1(一)(二)(当事者等)の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2の事実のうちA事件請求の原因3(一)(本件第三決議の存在と内容)と同旨の事実は、前掲B事件甲第一号証によってこれを認めることができ、A事件請求の原因3(二)(1)(2)(本件第三決議の可決要件の充足)と同旨の事実に対する判断は、前記第一、三2に説示したとおりである(《証拠説明省略》)。

三  B事件被告らの主張1(法一四条違反による本件第三決議の無効)のうち、本件第三決議が本件ビルを店舗部門、住宅部門、別館部門の三つの部門に分け、それぞれの部門に属する各区分所有者の管理費負担割合に差異を設けていることは当事者間に争いがない。

しかし、本件中間判決によって示されたと同旨の理由によって、本件第三決議は法一四条に違反することによって無効であることはないというべきであるから、右主張は理由がない。

四  B事件被告らの主張2(内容の著しい不公正、不公平による本件第三決議の無効)に対する判断は、前記第一、三4に説示したとおりである。

五  請求の原因3(遅延損害金)に対する判断は、前記第一、三5に説示したとおりである。

六  そこで、B事件被告らの主張3(弁済供託)について判断するに、弁論の全趣旨により、同被告らが同事件原告に対し、昭和五五年七月分ないし九月分の本件ビルの維持費として右主張3記載の各金員を弁済提供したこと、右原告が同金員を本件第三決議による値上げ維持費額の内金としてでなければ受領しないとする態度を示したことを認めることができる。

しかし、右事実によると、右被告らが原告に対し提供した右金員の額は、前記認定の本件第三決議による値上げ維持費額に基づいて計算した右被告らが支払うべき金額には満たない額であるし、また、右原告は右被告らの提供した金員を右維持費の内金としてならば受領するとの態度を示しているのであって、これらの点から考えて、同被告らの前記供託は弁済供託の要件を欠くものであるというべきである。よって、この点に関する同被告らの主張は理由がない。

七  《証拠省略》によれば、B事件被告らが別紙一覧表5記載のとおり、本件ビルの負担維持費を滞納していることを認めることができる(同被告らが右表記載の額を超えて同事件原告主張の別紙一覧表4記載の金額を滞納していることを認めるに足りる証拠はない。)。

八  よって、B事件被告らは、同事件原告に対し、別紙一覧表5記載の各滞納維持費及びこれに対する支払ずみまでの遅延損害金を支払う義務があるというべきである。

第三C事件について

一  請求の原因1ないし5(当事者等、本件第一、第二決議の存在、別訴事件及び一〇九〇事件の提起、本件仮処分事件の申請、本件和解の成立)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、請求の原因6(一)(錯誤に基づく本件和解の無効)について判断する。

C事件原告らは、本件第一決議の際に用いられた議決権代理行使の委任状のうち七八通について瑕疵があったことを知らなかったので、本件和解における同原告らの意思表示は錯誤に基づき無効である旨主張する。

しかしながら、C事件原告らが、本件和解において、同事件被告に対し、本件第一、第二決議の有効であることを認めたうえ、右各決議に従って滞納管理費を分割払いし、かつ、以降の管理費を誠実に支払う旨約していることは前記のとおりであって、右約定は、これを合理的に解釈すれば、右各決議の効力については、その決議内容自体に瑕疵が存することを理由とするか、また、右各決議がなされた各集会の招集手続に瑕疵が存することを理由とするかを問わず、およそ争いを止めて、その決議に定められたところに従う合意と解すべきである。そうとすると、仮にC事件原告ら主張のように、本件第一決議に提出された委任状に瑕疵が存在し、同原告らにおいてこれを知らずに本件和解の合意をしたものであり、その意思表示に錯誤が存在するとしても、その錯誤は、和解によって止めることを約した争いの目的であった事項、すなわち右決議の効力についての錯誤に外ならないのであって、本件和解の当事者たる右原告らはその無効を主張できない(民法六九六条)といわなければならず、前記請求の原因6(一)の主張は失当である。

三  次に、請求の原因6(二)(民法九〇条違反による無効)について検討する。

別訴事件と一〇九〇事件が併合審理され、昭和五二年一月一七日、本件中間判決が下されたことは、本件記録上明白であり、同判決がなされたことによって本件仮処分事件について断行の仮処分決定が下される可能性が極めて強くなったこと、本件仮処分事件の債務者であるC事件原告ら等が本件和解に応じたことは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右原告ら等が本件和解に応じたのは、同人らが本件ビル内で店舗を営む商人であるため本件仮処分事件につきC事件被告の申請を入れた仮処分決定がなされ、その執行がなされるという事態に至ったときには、営業上の信用が害される、と危惧したことが、少なくともその一因になっていることが窺われる。

しかしながら、一般に、保全訴訟の債務者につき、将来裁判所により保全命令が発せられ、それが執行される蓋然性が高いからといって、それだけで当該債務者が「窮状」にあるということはできないし、また、商人を債務者とする保全命令が執行された場合、その商人の営業上の信用に多かれ少なかれ不利益な影響を及ぼすことは、その執行に伴う不可避的な帰結であるから、債務者が右のような保全命令の執行に伴う不利益を回避するために訴訟上の和解に応じたとしても、そのことを目して債権者が債務者の窮状に乗じたとは到底いえないし、本件においても右と別異に解すべき特段の事情を認めることはできない。そして、他に本件和解がC事件原告らの窮迫、無知に乗じてなされたものであることを認めるに足りる証拠はないから、C事件原告らの前記主張もまた失当である。

第四結論

以上の次第で、A事件原告の請求は、金四一万二八九一円及び内金三二万八〇九七円に対する昭和五六年五月一日から支払ずみまで金一〇〇円につき日歩四銭の割合による金員の支払を求める限度において、B事件原告の請求は、同事件被告元島守に対し金二二万五〇六八円及び内金二二万一〇〇四円に対する昭和五五年一〇月一日から支払ずみまで同割合による金員の支払を、同事件被告株式会社ブロード社に対し金四万八六二二円及び内金四万七七四五円に対する同日から支払ずみまで同割合による金員の支払を、同事件被告吉田豊に対し金四万七二二三円及び内金四万六三七一円に対する同日から支払ずみまで同割合による金員の支払を求める限度においていずれも理由があるからこれを認容し、A、B事件のその余の請求及びC事件原告らの請求は失当であるからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠田省二 裁判官 寺内保惠 裁判官小池信行は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 篠田省二)

〈以下省略〉

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